TEN開発ストーリー
TENが生まれるまで
今までのように、これからも
撫でたり
抱っこしたり
一緒に寝たり
まだまだこの子と一緒にいたい。
TENはそんな想いからできた、
燕三条の職人が作った優しい骨壺です。
新潟県燕市は、金属加工で有名な職人の町です。
株式会社大倉製作所はその職人の町に名を連ねる、金属加工工場でした。
現在の工場がある場所は、社長宅と工場が隣り合っていました。
春には近くの公園の桜並木が美しく、県内でも珍しい花魁道中のお祭りがある、のどかな地域です。
しかし、周囲には野良猫がたくさんいる地域でもありました。
実は猫が
大っ嫌い
だったんです
TEN開発者
株式会社大倉製作所代表取締役社長
大倉龍司 談
猫アレルギーだった私は、猫が近づくだけでくしゃみが止まらなくなるほどでした。なので、できるだけ猫たちと距離を置いていました。
そんなある日、一匹の野良猫が現れました。
それがてんちゃんです。
てんちゃんは他の猫たちとは違い、どんなに素っ気なくしても私の足元で甘えてきました。
猫は賢い生き物です。
自分を嫌う人間には普通近寄ろうとはしません。
にもかかわらず、甘えてくる様子に、心を動かされていったのです。
しかし、だからと言って家族に迎え入れるまでは考えていませんでした。
新工場が建設されることが決まり、私たちは引っ越すことになっていました。
なので、家が取り壊されるその日までは、遊びに来たてんちゃんを撫でてあげたりして家族で、大切に可愛がるようになったのです。
その猫をてんちゃんと名前までつけて。
驚くべきことに、その時には私の猫アレルギーがなくなっていました。
そうこうしているうちに、工事が始まり、周りの野良猫たちも見かけなくなりました。
てんちゃんも同じように、半年ほど見かけなくなり、きっとどこかで頑張って暮らしているんだろうな。なんて勝手ながら、少し寂しい気持ちで過ごしていました。
そうして新しく出来上がった工場が始動し、少し経った頃に、なんと、てんちゃんが帰ってきたのです。
飼ってもいないくせに、帰ってきたって言い方はおかしいかもしれませんが、てんちゃんが新しい事務所に現れたときは「おかえり!」と、みんなで迎え入れていました。
その頃には、もう私たちの中でてんちゃんは大切な家族になっていたのです。
そうして家族になったてんちゃんを事務所に迎え入れて、温かい寝床を用意してあげたら、すぐに馴染んでくれました。
元野良猫なのに甘えん坊で、事務所に人がいないと安心して眠れない。
がやがやと事務所で私たちが仕事をしていると、安心しきった表情でお昼寝する姿に、工場内ではすぐに人気者になりました。
こうして家族になったてんちゃんですが、家族として一緒に過ごせる時間はそう長くはありませんでした。
野良猫特有の病気が見つかり、お散歩や走り回るのが大好きだったてんちゃんは、どんどんと衰弱していってしまいます。
この時には、後悔しかありませんでした。
なんでもっと早く家族に迎えてあげなかったんだろう。
なんでもっと早く病院へ連れて行ってあげなかったんだろう。
もっとたくさん可愛がって、美味しいものをお腹いっぱい食べさえてあげればよかった。
あの時。とか、もっととか。そんな気持ちが溢れてきて、止まりませんでした。
そして、とうとうてんちゃんにお迎えが来てしまった日。
家族みんなで泣いているのに、なぜか泣けなくて。本当に苦しくて悲しい時って、涙も出ないんだなって初めて気づきました。
ぽっかり心に穴が開いたなんて使い古された言葉ですが、本当にそうなるんです。
そうして、てんちゃんの亡骸を火葬してもらい、手元に戻ってきたときのあの真っ白で無機質な骨壷を見たとき、悲しさより申し訳ない気持ちが湧きだしました。
こんな冷たくて、小さな入れものに入れちゃってごめんね。
また後悔が押し寄せてきて、冷たい骨壷を撫でながら謝り続けました。
子供たちも同じことを思ったらしく、このまま霊園に入れるのは可哀そう。
寂しがり屋のてんちゃんは絶対に一匹で霊園に入れたりしたら駄目だよ。
このまま今までみたいに、みんなで一緒に過ごそうよ。
そう訴えてきました。
一緒に過ごせた時間は少なかったけれど、大切な家族を一人にしておくことなんてできない。
生きている間にしてあげられなかったことを、これからもっともっとたくさんしてあげたい。
甘えん坊のてんちゃんは、すぐに膝の上に乗ってきて撫でてとせがんできた。
なら、同じように過ごせる骨壺はないだろうか。
私は方々を探し回りました。
昨今、ペットブームも相まって、ペットの骨壺の種類はたくさんありました。
でも、膝に乗せたり、撫でたりできる骨壺がどうしても見つけられません。
実際、まだまだ手元供養は霊園への納骨や、庭への散骨や埋葬より需要が少ないのか、可愛い絵柄の骨壷だったり、仏壇のようであったり。
特に、新潟のような田舎に住んでいると、ペットの遺骨をそのまま自宅に庭に埋めた、なんて人も多い。
どんなに探しても見つけられない。
見つけられないなら、作ればいいじゃないか。
思い立ち、ペンを取りました。
愛するあの子と触れ合って繋がっていられる。
そして、パワーやエネルギーを感じ取れるように。と、無心にスケッチをしていきました。
悩みに悩んで出来上がったのが、両掌で持つとちょうどいい大きさで、卵型の骨壺でした。
これからもたくさん撫でてあげたくて、撫で心地にこだわりたい。
友人たちの力も借りて、まずは樹脂で試作しました。
トイカプセルのような形状にすれば、撫で心地も良いだろうなんて簡単に考えましたが、よく見ると、はめ合わせの部分には噛み合わせのための段差があり、これでは卵型とは到底言えません。
無理を言って何度も、何度も試作を重ね。
ようやく出来上がった段差の無い、綺麗な卵型の骨壺。
そこにてんちゃんのお骨を移し替え、膝の上に乗せ、ゆっくりと撫でたとき、静かに涙が零れました。
すっぽりと手の中に納まるてんちゃんを、何度も撫でていると自然に「おかえり」という言葉が漏れ、ようやく自分の涙に納得しました。
供養は、残された者のエゴでしかない。
どうやってその子を弔うかは人それぞれ。
ペットと人の数だけ、お別れの仕方も変わってくる。
でも、私たち凛としておだやかには、お別れではなく形を変えて帰ってくる。
おかえりと、また迎え入れて、これからも大切に過ごしていくことが私たちの中の答えだったのです。